連載コラム「猫の名言」
日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、福岡猫の会で病気の保護猫たちの看病を続けられてきた若林忠宏氏による連載コラム。
猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。
Vol. 5 「自分の命を生きること」
貴方は既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要などありません。
Joseph Maurice Ravel(モーリス・ラヴェル 仏作曲家 / 1875~1937)
「猫に関する名言じゃないじゃない?」とお思いかも知れませんが、彼の大作曲家ラヴェルは、知る人ぞ知る愛猫家です。そして、この言葉は、猫をこよなく愛し、猫に魅せられ。そして、猫に学び、共感する人間ならではのものに違いありません。何故ならば猫は、ふたつとして同じ性格や考え方、感じ方がない生き物だからです。
ラヴェルは、後に彼に迫るほど世界的に知られる作曲家になる、若き日のガーシュウィンの弟子入りの懇願を、この言葉で断ったと言われます。
私は、この言葉をピアノ教師だった母から子供の頃に聞いていました。まさか自分が音楽家になり、世界中数十人の師匠に学び、数百人の生徒に教えるとは思ってもいないころのことです。そして、わりと最近になって、ラヴェルがかなりの愛猫家だと知り、この言葉の意味が更に深く、大きく。そしてとても温かく感じられるようになったのです。
実は私自身、基礎はほとんど「独学」なのです。民族音楽を始めた1970年代は、現地に行くなど考えられませんでしたし、来日コンサートもほとんどありませんでした。それが90年代になって急に増え、「独学ではこれ以上無理」の限界を感じていた私は楽屋に飛んで行って教えを請うたのです。
なので、今も、猫たちのご飯と薬の為に掛け替えの無い生徒さんには失礼ですが(皆分かってくれてはいますが)、「口を開けて待っていれば餌が来る」と思っているような雛鳥のような学び方では、「自分の音にならない」というのが本音なのです。
もし猫たちが楽器を学んでくれてオーケストラができたら。それはそれは凄い音楽になることでしょう。個性的で、輝いていて。しかもそれぞれの音の命がもの凄いことでしょう。しかし、皆で同じ曲を演るなんて猫では考えられません。全員がソリストなのです。しかも、当然誰の伴奏もしませんから。全員独奏しかないのです。
だからと言って、猫が共同作業が出来ない、しない、ということではありません。いずれお話したいと思いますが、それは素晴らしい純粋な使命感の共有のようなものです。しかし基本では、互いを頼ったりせず、決して依存したりしません。
師弟関係といえば「師匠が白と言えば、黒も白」的に、完全無垢で妄信的に受け取ることも大切な基本ではあります。洋の東西で、学びや習得や修行は、まず「模写、書き写し、真似」から入るものです。しかし、お互い人間同士ですから、期待も抱けば、頼りもします。そして、良くも悪くも、だんだん親子のようになってゆくのです。猫は、親子でも「個々の命」として向かい合います。
ラヴェルにとっても、才能と情熱に溢れるガーシュウィンを弟子として抱えたい思いはきっとあったに違いありません。素敵な猫と出逢った時と同じように。
しかし、その才能と存在を認めるが故に突き放したのだろうと思います。野良で暮らすことに危険が無いならば、子飼いの家猫で収まるよりは「孤高に生きろ!」とエールを送ったのではないでしょうか。
若林忠宏
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