そう言われても… 猫じゃないんだから – 連載コラム「猫の名言」



連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 


Vol. 29 「そう言われても… 猫じゃないんだから」

 
人間は自由であり、常に自分自身の選択によって行動すべきものである。一人一人の人間が、究極の絶対的な自由を持っている。

Salvador Dalí (サルバドール・ダリ スペインの画家 / 1904~1989)
 

 幾分世の中を嘲笑したかのようなふざけた写真の数々で知られる、スペインの著名な画家ダリは、同じ時代の同じスペイン人の画家ピカソと共に相当な愛猫家として知られています。

 ところが、この名言、哲学者でもあり小説家でもある、ジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre / 1905~1980)の名言であるとも言われます。二人が同じ名言を言った? それとも言わなかった? 今のところ謎なのですが、サルトルもまた、愛猫家であったことは確かなようです。それはそれで不思議な話しです。もしかしたら名言の数々は、彼らの愛猫が言わせているのでしょうか? 

 ダリの場合頭数は少なく、おそらくたったの一頭だったのでしょうが、「バブー」という名のオセロット種(野趣に富む)を、豪華客船のクルーズからエッフェル塔最上階、マンハッタンのホテルなどなど、ほとんど一緒に連れ回し、芸術談義の場にも居させたと言われます。

 宝石を散りばめた首輪を付けていたとも言われますから、所謂「猫を深く理解して」という「愛猫家」と言うよりは「溺愛」タイプのようにも思えます。

 が、表題の言葉を知ると、「愛猫家」であるか否か以前に、ダリが相当な「猫的な人間」であることは間違いありません。更に、この言葉に至る思想(生き方)を猫に学んだのであるならば尚更であり、元来そのような発想と生き方の人間であり、故に猫と相性が良いと自覚していたのであるならば、「溺愛」は、ダリ独特のパフォーマンスの要素もあるのだろうと考え直して、やはり「良く猫を理解した、素晴らしい愛猫家さんだ」と言えるかも知れません。

 まず表題の言葉は、「さらっ」と読んで「さくっ」と理解してしまえば、誰もが「分かった」気になれる言葉ですが、「ふーんそうなんだね」から先に思考が進みません。もしくは、「それはあくまで理想だ」という結論に至ってしまい、やはりそこで終わってしまいそうです。
 
 ところが、表題のこの言葉の「人間」を「猫」に置き換えれば、おそらく誰も否定しないでしょうし、御陰さまでそこそこご好評の御陰で連載を続けさせて頂いておりますこのコラムでも何度か、正にそう語っている「名言」をご紹介致しました。

 つまり、「猫ならば当たり前」のことなのです。
 問題は、それを「人間」に当てはめることが果たして出来るのか? ということです。

 しかし、おそらく多くの人々が、この「疑問」を即座に自己解決してしまうのでしょう。「まぁ理想論か極論だろうね」としていしまい、それ以上深くは考えないのだろうと思われるのです。

 近年、様々な自由は「勝ち取った」筈なのに、ちっとも「生き辛さ」は改善しない、という声を聞くことが多くなりました。
 その一方で、その「生き辛さ」を他者の所為にして起こる、反社会的な行為や事件、犯罪も増えて来ている印象を抱きます。

 私の個人的印象かも知れませんが、「金品目当て」の事件に対して、「金品以外」例えば「馬鹿にされた」「気に入らない」「裏切られた」の様な「肯定と否定」に関する感情が原因の事件の割合が増したようにも思えます。

 この見立てがもし正解であるならば、最近ではどなたも経済的に余裕は無いのでしょうが、それでも社会全体としては、ある程度「物質的」な繁栄に満足し、逆に「お金で買えないもの」を強く欲し、強引に手に入れようとするがあまりの事件が増えたと解釈する事が出来るように思います。
 つまり「物」を手に入れたり捨てたりの感覚で、「心」も手に入ったり、捨てられると感じているとか、他の感じ方が分からない、などが原因という話しです。

 すると、本末転倒な話しですが、数々の「自由」を手に入れた、と思っていますが、実は「肝腎な自由」とか「本当の自由」は、むしろ手に入れられていないのでは?と考えることが出来ます。
 
 例えば「表現の自由」は、SNSでもTwitterでも言いたい放題言えます。「選択の自由」は、ファミレスや居酒屋のメニューなど、目がくらみそうなほど沢山あります。「思想や考え方や価値観の自由」に関しても、「情報過多」と言われるくらい多種多様に何時でも「気に入った、腑に落ちるもの」が手に入ります。

 にも拘らず、「自由=幸せ=生きていて楽しい」とならないのだとしたら、それは何が原因なのでしょうか? 

 「自由」に関しては、この連載でご紹介したことと、日本と同じく敗戦を体験し戦争犯罪が問われたドイツの新憲法に、この謎を解く鍵を見ることが出来ます。

 また、それ以前に、誰もが表題の文言を「そりゃぁ理想論だよ、どだい現実無理な話しさ」と思うのは、その「究極の絶対的な自由」を行使した場合、ほぼ必ず「他人のそれ」とぶつかってしまうからに他なりません。

 樹木の枝葉が陽を求め「先へ先へ」と伸びようとする様を「自由への願望」と喩えたとして。他者の枝葉とぶつかるは、家の壁やフェンスにぶつかるは、が現実だからです。

 もしくは、「学校行きたくない=行かない自由」や「働きたくない=働かない自由」を得たところで、「生きる自由」が奪われてしまうならば、幾ら天才画家だ有名人だからと言って、ダリ氏の言っている言葉は、むしろ腹が立って来そうな位「意味が無い言葉」のように思えて来ます。

 そこで、今迄にご紹介した「名言」の幾つかと、ドイツ憲法で謳われている言葉が意味を持って来るのです。

例えば、連載Vol.9での愛猫家チャーチルの言葉「凧が一番高く上がるのは、風に向かっている時である。風に流されている時ではない」や、同じく愛猫家リンドバーグの言葉「人間の価値は成果の大きさではない。その人間が苦難を乗り越えた勇気の大きさである」のように、「容易く手に入れられる自由ではつまらない」と考え直し、むしろ「苦労して手に入れた自由こそ悦ばしい」と思えば、仮に「道半ば」で「自由度」がそれほど高くなくても、気持ちも心も閉ざされることはないのではないでしょうか? なによりも全て「自分の本当の力」で手にしようとしているのですから、「量より質」ではないでしょうか? 

 他方のドイツ憲法が引用した「言葉(考え方/概念)」は、第一次大戦の辛酸を味わいながら「何故ドイツ人は同じ後悔をくり返したのか?」を心理学の見地から説いたエーリヒ・フロム(Erich Seligmann Fromm / 1900~1980)の「自由というものは、それを受け止める上で不可欠な孤独と責任をも受け止めた時にのみ得られる」というものです。

 これは正しく、この連載コラムVol.13でご紹介したアンディー・ウォーホールの「孤立することが悪いなんてちっとも思わない。僕にとっては最高の気分さ」と重なります。
 
 例えば、SNSやTwitterで、実名で発言してみたらどうでしょうか? 「匿名でさえヘタなことを言ったらとんでもなく叩かれる!冗談じゃない!」と思うかも知れません。しかし、それによって「誰?→自分」というものは得られることでしょう。「ヘタなことは言わない」とか「そのレベル」の選択は、確かに私たち一人一人の「絶対的な自由」な訳です。

 あと、一番肝腎な「猫に見習う自由」に関して最後に申し上げるならば、それは「好き勝手する」という行動の自由ではなく、「思考や夢想の自由」です。

 何も働かず、ご飯や居心地のことしか考えていないようでいて、猫たちは、日々、まどろんでいる時でさえ、「あれこれ楽しいこと」や「意外に論理的だったり哲学的だったり」なことを考えています。 その証拠が、本当に良く寝ている時以外の猫のおでこに触れると、結構温かいことです。脳の血流が多く、何かをたっぷり考えているのです。

 これも「個々に等しく与えられた究極の絶対的な自由」であり、論理的な思考は、心身を良い意味で活性化させ、悪質なストレスの撃退の特効薬でもあります。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏



 
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