大空と猫 – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Takuma Kimura

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 21 「大空と猫」

 
人間の価値は成果の大きさではない。その人間が苦難を乗り越えた勇気の大きさである。

Charles Lindbergh (チャールズ・リンドバーグ 米飛行家 / 1902~1974)
 

 「猫に関する言葉じゃないじゃない?」と思われるでしょうが。やはり、彼のリンドバーグも、非凡な愛猫家として知られています。

 「冒険家、探検家やアスリート」には、比較的「愛猫家」が少ないのは事実です。「愛猫家」が多い、芸術家、随筆家の様に、自宅の自室に籠って仕事をするタイプと比べると、「猫が好きでも接している時間が得られない」という事情もあるのかも知れません。しかし、大自然と向かい合ったり、自然や、肉体精神の極限と向かい合うタイプの人たちですから、根本的に「社会や人間関係」という視野よりも、大きな世界に意識が行っているのだろうと思われます。
 その意味では「猫と感覚が近い」と言うことが出来るかも知れません。

 リンドバーグはまた、同じテーマを次のように補足するような言葉も残しています。

「成功は成し遂げた内容によって図られるのではない、その人が出くわした障害の大きさと打ちのめされそうな困難に立ち向かって奮闘を続けた勇気によって図られるのである。」

 リンドバーグは、1927年に「大西洋単独無着陸横断」を成し遂げ、その二年後に結婚し、1931年には、「北太平洋航路調査」の際に来日もしています。ところが、その翌年には、長男が身代金目的で誘拐され殺害されています。
 他にも、心臓病の姉のために、学者と「世界初の人工心臓」を共同開発するなど。当時の人々が「無理だ、無茶だ、夢物語だ」というようなことに、果敢に挑戦するとともに、ひじょうに多くの苦難を乗り越えて来た、正に「勇気の塊のような人」と言えましょう。
 
 しかし、そのような人が、単純に自画自賛のように表題のような言葉を発するとは思えません。

 女性運が無い人が多い(と言っても、その原因の多くは当人にありそうですが)芸術家・随筆家の「英猫家」とは異なり、リンドバーグの場合、聡明で実直な夫人に恵まれ、その支えがあったことも事実のようです。 
 それでも、彼自身の心の世界では、何度もくじけそうになったり、挫折や自己嫌悪を味わったに違いなく、それが表題の言葉に至ったのに違いありません。

 すなわち、彼の言葉にある「価値=勇気」は、「打ちのめされそうな困難」、つまり「苦しみ、悲しみ」に比例するものであるということではないでしょうか。

 
 さて、そんなリンドバーグは、そのような人生観と壮絶な体験と。つかの間の平穏な自宅での一時、膝の上でまどろむ愛猫とを、どのように結びつけていたのでしょうか?
 
 言うまでもなく、猫たちは、「何かの成果、名誉」のようなものを得ようとはしません。「成果」と言ったら「鼠や蜥蜴(トカゲ)を仕留めた」くらいのものかも知れません。
 また、猫たちは、そもそも「物(財産)」を所有しませんし、それを得ようと欲する意識もありません。しからば、そのようなものに対して努力をするということもあり得ない訳です。
 
 しかし、猫たちの「苦難に立ち向かう姿」は、リンドバーグの「単独飛行」にも匹敵する、「孤独と不安と恐怖」との向かい合いに違いありません。

 もっとも、猫たちの場合、それが「当たり前」と思っているのでしょう。
 しかし、不治の病と壮絶な戦いを繰り広げて逝った子たちの多くは、「人間だったら耐えられないだろう」と思うほど過酷な戦いを続けました、その「苦しみに比例する勇気」には頭が下がる思いばかりです。

 
 私は日々、何頭もの猫たちと接していながら。ご飯や様子見の一瞬であろうとも、その瞬間は、「その子だけ」に集中しています。でないと、異変に気づくのが遅れてしまいかねません。
 また、猫は「比較意識や自意識」というものを持ち合わせませんので、その御陰もあって、猫同士を比べたり、全体の中で個々を評価をすることが無いのも、「その子」に集中出来る理由かも知れません。

 なので、何十頭との出会いを経て、かなり後になって気づいたことですが、「我が家で生まれた子」と、「元野良(捨て猫や野良二世)」とでは、総体的にかなり意識の違いがあるのです。

 それは実に明白なことでした。
「家で生まれた子」は、誠に「世間知らず、苦労知らず」で、「元野良」は、実に感心なことに「ものの有り難み」というものを良く理解しているのです。

 保護して数ヶ月の間は、個体差がありますが、「警戒心、懐疑心」というものがあります。が、それらが薄れた後は、「信頼関係」が日々高まります。
 そして、気づけば「このご飯好きじゃない」とか、「今欲しくない」などの「身勝手、ワガママ、気まま」は、ほとんど無いのです。そして、「年長猫」や「先住猫」に対する礼儀や遠慮も、「世間知らずの子」より遥かにしっかり出来ています。
 
 もし、猫に「良い子」と「そうでもない子」があるとしたら、やはり「苦労と悲しみ」の量の差にあるのではないでしょうか。
 
 なので、もしリンドバーグに「では、猫の価値の場合は?」と訊ねたらば。

「猫の善し悪しや価値は、血統毛並や見たくれ、可愛いさ人懐っこさではない。その猫の、苦難を乗り越える勇気の大きさと、その苦労が培った『有り難みの思い』である」とお答え下さるのではないでしょうか。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

「福岡猫の会」




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