他者と同じになった時、消える自分とは – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Kevin Dooley

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 43 「他者と同じになった時、消える自分とは」

 
猫は確固たる個である。すべてに対して自分自身の見解を持っていて、その中には、自分が支配する人間も含まれている。

Maurice John Dingman (モーリス・ジョン・ディングマン 米国の聖職者 / 1914~1992)
 

 猫について名指しで名言を残す著名人の中に、カソリックの神父さんがいらっしゃるとは、正直意外でした。逆に、改めて「なるほどな」と感じ入るところもありました。

 
 と言うのも、キリスト教、ユダヤ教、そしてイスラム教などの、俗に言うアブラハム教などの比較的新しい宗教(と言っても千数百年~二千年以上ですが)の感覚と、猫の感覚には隔たりがあるのだろう、と思っていたからです。

 逆に言うと、カソリックの場合、そういった感覚を持ち得る余地が豊かなのかも知れない、と改めて考えた訳です。

 勿論、お言葉と宗教を絡めてこのように申し上げるのは、当のディングマンさん御自身、良くは思わないかも知れませんが………..。

 

 もし、猫が人間になったとしたら………。
 その宗教は、紛れもなくアニミズム(自然崇拝)に違いありません。

 そして、そこには教祖も教義もお寺も神社もない。
 だから異教徒との戦争もなければ、宗派抗争もない。
 けれど、祈りはあり、供物もある。

 
 野良猫が時々何かのお礼に「蜥蜴の尻尾」などを持参してくることがありますが、
 猫はその(お礼や貢ぎ物の)感覚を、元来持っているのです。

 
 そして、預言者も居ない。と言うか、殆ど全ての猫が預言者だから。
 正にアニミズムの純粋な形がそこに現れるに違いないのです。

 
 愛猫家の多くが体験し感じていることと思いますが。
 どうも猫は、人間が見えないものや聞こえない声を感じているようなのです。

 知人の愛猫家さんたちからも、そのような話しを多く聞きますが、残念ながら私の場合、猫に対する想いの割には、そのような体験は少ないかも知れません。
 
 また、もっと残念なことに、私の知り合いの「猫の神さまと話しが出来る」という人や、二三人のヒーラーさんで、「猫の言葉(想い)」を私に語って下さった方々のような才能(能力)は、全く持ち合わせていないのです。

 勿論、全てをお伽噺のように想われる方も多いと思いますし、私も(羨ましさを通り越した悔しさも手伝って)何時だって半分以上懐疑的に聞いていますが。

 それでも当の猫と私しか知らないことを言われたり。行方不明で大慌ての時にSOSで伺ったところ、見事に居場所を言い当てて下さったことが異なる方で何回かあって、有難さも含め、否定出来ない思いも少なくないのです。
 
 勿論、微妙な解釈の違いや、見え方聞こえ方の判断の違い、私の勘違いもあって、大いに振り回されることも少なくありませんでしたが。

 

 このように、人間の場合、特殊な才能を持っている人だけが聞こえる、見える、感じるものを、猫はきっとどの猫もごく普通に持ち合わせ、日常的に発揮活用しているのでしょう。

 勿論、何らかの病気や強いトラウマを抱えて、目先の問題や体調に支配されている場合、流石の猫も現象論的、現実論的に我が儘、身勝手、目先を生きることで精一杯の場合も少なくありませんが。
 
  
 お伽噺の続きになりますが、
 その不思議体験の最たるものが、不治の病で失った猫が生まれ変わって戻って来るということでしょう。

 私は百頭近い猫との出逢いの中で、十頭前後その体験をしたと思っています。

 けれど、おそらくその半分は、猫の家族(飼い主)の希望的観測(自己暗示/思い込み)かも知れません。
 しかし、それをも含めて、知り合いの「猫の神さまと話しが出来る」人や、二三人のヒーラーさんが、時には異口同音に「そうだよ、あの子だよ!」
 とおっしゃって下さったのです。

 
 しかし、何処かに懐疑的な思いも捨て切れない。

 と言いますか、私の想いの正体は、「ぬか喜びしたくない」ということと、
 
 失った「悔しさ、虚しさ」や、不治の病と分かってはいても、
「あの頃、もっと早く気付いて、あれをしていれば」という後悔や自責が絶えない。

 それからの「解放(逃げ)」であってはならないし、そうであって欲しくない。
 という思いが懐疑心を掻き立てているのでしょう。
 
 勿論、根が素直じゃないからに違いありません。
 素直に喜んで「お帰り!」とまた幸せな日々を送れば良いのかも知れませんが。
 逆に言うと、「疑り深い人程騙される」という道理もありますから、私もそれなのかも知れませんが。 

 
 しかし、このような話し、とりわけ自然崇拝(結果的に多神教になるので)や生まれ変わり(輪廻転生)は、アブラハム教のいずれもが否定している筈のことです。

 尤もカソリックの場合、天使の存在や人間なのにその類い稀なる宗教的な行いによって「聖人/聖者」とされた人物も少なくなく、人間にとっての最初の信仰(アニミズム)から遠くない側面も見れるように思います。

 勿論、信者から聖職者に至る迄、「人それぞれ」である面も多々あることでしょう。それを許す柔軟さも、それこそ二千年以上掛けて得たものかも知れませんが、カソリックには少なくなく、ディングマンさんは少なくともそれが豊かな人であることは確かなのでしょう。

 
 悪い意味ではなく、常識的な聖職者が猫について語るのであるならば、この連載のVol.39でご紹介した米人気アニメ「ガーフィールド」の作者、ジム・デイビス氏の口振りを模して、

「我々は心の奥深くに同じ神を持つ。ネコさえもそれを信じて生活している。」とでも言いそうです。
 
 
 ところが、ディングマンさんは全く逆の発想を述べているのです。
 故に、如何に観念に捕われず実に純粋に猫を観察しているかが偲ばれ、
 やはり「愛猫家なのだろう」と思わされるのです。

 
 むしろこの連載のVol.16でご紹介した米小説家マーク・トゥウェイン氏の「神の創造物全ての中で、たった一つ綱の奴隷にならないものがある」の方が、カソリック神父に相応しいような気さえするのです。

 
 それどころか、もしディングマンさんが、猫を引き合いに出して神とか宗教について説いたとしたら。 否、既に表題の言葉に「すべてに対して自分自身の見解を持っていて」とあるのですから、もうおっしゃっているに違いないのですが。

 全ての猫は、それぞれの神をその心に抱いている。

 ということに他ならないのです。

 
 もしこの解釈が正解であるならば。世界中のあらゆる宗教を否定しかねず、愛猫家で信仰心の厚い多くの方々から非難が寄せられ得るに違いない程の話しかも知れません。

 何故ならば、人間とその宗教は、何千年にも渡って「神とは○○である」と、説いて来たからです。

 しかし、その答えと異なる答えを許さなかった歴史も多く長い。
 あなた方の信仰は間違っている。私たちの神こそが神なのだ、と。

 それは、物質的な繁栄が最高点に達したかのような今日現代、その排他性や敵対心はむしろ顕著になりつつあるとも言えます。

 
 ところが、
 猫の場合,猫それぞれなのです。
 そして、おそらく猫の誰もが、他者のそれを否定しない。

 むしろ、それぞれである方が、「答えはひとつなのか?」とさえ思える程に。

 
 今日でもアニミズム性を強く残している信仰は、世界に極めて希少ですが、
 強いて言えば、古き良き時代の日本人とアフリカ人がそうであると言えると思います。

 
 しかし、アフリカ人と日本人では決定的な違いがあります。
 そのことについては、その音楽の楽しみ方に関して、私はアフリカ音楽をご紹介するレクチャー・コンサートで良く述べる次の話しに見ることが出来ます。

 
 日本の聴衆は、回りと異なる手拍子や拍手をすることを恥じるけれど、アフリカは全く逆。ライブ風景を捕らえた映像などを見ると、聴衆は勝手気まま、自由奔放に隣と異なる手拍子やノリで楽しんでいる。

 まるで「人と同じになると自分を見失うような気分になる」と敬遠しているかのようでさえあります。

 正に、猫の音楽会の様子です。
 もちろん、そこには「同じ音楽」が聴こえているのです。

 もし、日本人が同じ姿を見せるとしたら、同じコンサート会場に集いながらも、各自でヘッドフォンで異なる音楽を聴いてノッている場合に限られるように思えます。
 それでさえも、あちこちで同じ音楽を聴いているのか? 元来表現方法のバリエーションが少ないのか? アフリカ人(や猫)ほど「それぞれで色々」ではないかも知れません。
 
 古代日本人がアニミズムを信仰していたことを考えると、残念な気がしますが、
 「猫好き」が増えた今日でも、まだまだ同じなのかも知れません。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

「福岡猫の会」




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