連載コラム「猫の名言」
日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら)
Vol. 37 「あるような無いような… 猫の生涯の目標とは」
目的地が大事なのではありません。景色の変化が大事なのです。
Brian Eno (ブライアン・イーノ 英国の作曲家、プロデューサー、音楽理論家 / 1948~)
かなりの愛猫家として知られるブライアン・イーノの音楽は、Vol.31とVol.35でご紹介致しました「西洋クラッシック音楽の中の現代音楽」に括られるジョン・ケージからの流れに存在すると考えられます。
より詳しく言いますならば、ジョン・ケージとイーノの間に、スティーブ・ライヒという音楽家を置き、イーノの後(先?)に、ルー・リード………デビット・ボウイ……と繋げてしまうと、クラッシックとロックの境目が無いグラデーションの世界が展望出来るのです。
勿論、異論もありましょうが。それでも、緻密な理論を持ちながら、その上に既成の観念に捕われない実験的な音楽を重ねたこれらの音楽には、「楽しませる」とか「ファッショナブル」という次元を越えた「音楽の力の探求」のような一貫した一本の筋道があります。
そして、上記の音楽家たちの繋がりは、実際事実のようであり、多分に影響を受け、それをそれぞれの土壌で発展開花させて来た人達の繋がりであることは事実です。
これらの音楽家が皆「猫好き」か?というと、流石にそれは言い切れないようです。ジョン・ケージとブライアン・イーノの愛猫家ぶりは有名ですが、ルー・リードはむしろ愛犬家で有名。
ところが親交もあり、大いに影響し合ったと言われるデビット・ボウイのアルバムデザインを担当した猫好きのデザイナー氏には「ルー」という愛猫が居て、なんとルー・リードが死んだ日にスタジオにひょっこり現れたと言い、デザイナー氏は「生まれ変わりに違いない」と信じているそうです。
系譜をジョン・ケージの前に辿れば、サティー、ドビュッシー、ラベル……という愛猫家が居ますから、「猫の生まれ変わり」や「猫の想いが乗り移った?」も含めると、本人が猫好きを自覚していなくても、何らかの「流れ」があるのかも知れません。
愛猫家ブライアン・イーノの表題の言葉を額面通り受け止めると、「忙しく目的地に急ぐのではなく、のんびり散歩気分が良いね」と言っているように読めます。確かにそれは、当たり前のようでいてとても大事なことです。
約束事や仕事に遅刻しまい!と道を急ぎ、季節の移り変わりや風の香りを感じる間もなく通り過ぎてしまう。当然、捨て子猫のSOSの小声も聞き漏らしてしまう。それは実際の毎日の通勤の様子のことではなく、それぞれの人のそれぞれの時代のことでもあるかも知れません。
子どもの頃は、学校に行くにも、家に帰るにも、だらだら散歩のように歩き、しばしば道草や寄り道をしたものです。しかし、道中の発見や学びは、時に学校の授業よりも大きな学びとして深く心に刻まれ、改めて思い返すことがなくとも、多くの人々のその後の人生にも深く関わっているに違いありません。
逆に言えば、半生を振りかえってみて、「無駄なことばかりした」とか、「回り道だった」と反省することもありましょうが、「散歩」だと思えば、何一つ無駄なこともなく、全ての記憶や体験が、学びとして再消化吸収されるかも知れません。
しかし、忙しい道中であっても、景色や季節の移り変わりを眼は確かに見ている筈でも、ほとんど記憶していなければそれはとても残念なことです。何故ならば、家の玄関を開け、職場の部屋に辿り着く、及びその逆の、道中の景色や面白い珍しいことや、今まで出逢ったことがないものなどの記憶が無いということは、猫型ロボットの「何処でもドア」で、「自分の家のドアを開けたら、もうそこは職場の部屋」のようなものです。人生も半生も、高校時代とか、大学時代とかも、振り返れば皆「何処でもドア」であったとしたら…………..。
「常に目的に向かって脇目も振らず真直ぐ猛進していた」と言うと、素敵な気もしますが。やはりそれは哀しいことではないでしょうか。
そういう意味合いで表題の言葉を理解すると、「流石ブライアン・イーノさん、本当に猫好きなんですね!」と感動致します。何故ならば、表題の言葉は、当連載のVol.3で、我が家の猫とスヌーピーの作者が言った同じ言葉「猫は道に迷わない」に深く関わる、言わば「対句」のようなものだからです。
「猫は気ままのプロだから」「(野良猫や半外飼いは)散歩と昼寝が仕事だから」と言われてしまえばそれまでですが。
大きな目標。しかし「大まかな目標」と言い換えることも出来る目標や予定に従って獣道を歩き出す。でも、ほとんど「道草、寄り道、散歩」のようですから、色々なことに気づき、発見し、学んでいる。だから短期間でその地域(エリア)を俯瞰出来、犬や猫嫌いの人間に阻まれたとしても道に迷うことがない。地理を知っていますから、初めてのルートでも家に帰って来れる。
もし猫が人間のすることが何でも出来、音楽家を志したとしたら。「世界に通用する有名なクラッシックの音楽家になるぞ!」とか「売れっ子ロック・ミュージシャンになって見せる!」などと言う「目標」は建てないに違いありません。
その代わり、もしかしたら一生掛かっても辿り着かないような大まかな目標、例えば「音楽とは何か?を極める!」などはきっとしっかりあって、決して忘れないことでしょう。でも、それはクラッシックとかジャズとかロックというようなものではない。
音楽評論家や、ジャンルにこだわるマニアには、「スタイル、ポリシー、ファッションに統一性が無い!」「あんなもの○○じゃない!」「伝統の破壊者だ!」「ただ珍しさで一時目だっているだけだ」などなどと酷評を受けること間違いない。
ところが、何年もやっているうちに、音楽ファンも評論家もけなせない「何か」を作り出している。
そう。ジョン・ケージ、スティーブ・ライヒ、ルー・リード………
そして、ブライアン・イーノなど、既成の観念やジャンル、様式に捕われずに新しい、しかし、後の人々に確かに継承される音楽を創り出した人々は皆、
「道無き道」「音楽の獣道」を歩んで来た人たちなのでしょう。
彼らにとっては、「既成の観念やジャンル、様式」に沿うことや辿り着くことよりも、そのことで、景色や季節や見知らぬ出来事を見損なう学び損なうことの方が大問題だったのでしょう。
最後までお読みくださってありがとうございます。
民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏
連載コラム「猫の名言」
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・著者紹介(若林忠宏氏)
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