連載コラム「猫の名言」
日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら)
Vol. 38 「我が輩は猫である」
ネコは人間に対する意見を持っている。ほとんど何も言わないが、全部を聞かないほうがいいのは確かである。
Jerome K. Jerome (ジェローム・K・ジェローム 英国の小説家 / 1859~1927)
ヒット作「ボートの三人男」で知られるイギリスの小説家ジェローム氏は、少年時代に相次いで両親を亡くし、肉体労働から俳優に至るまで様々な仕事を点々として苦労を重ねた後に、ユーモア小説が当たって幾つかのヒット作で著名になったと言われます。
「苦労を重ねた」にも拘らず、「ユーモア」と言うのも不思議な感じがしますが、決してブラックではないところがジェローム氏の凄いところでしょうか。
「ボートの三人男」は、ジェローム氏自身と二人の友人と、一頭のワン子が主人公ですから、必ずしも愛猫家ではないのでしょうか? 尤も、「ボートの上」というシチュエイションでは、猫よりは確かに犬の方が良い子にしているでしょうし、しっくり来ます。
しかし、表題の言葉は、かなり猫を知っていると思われますし、良く猫を見つめて来た人なのであろうと思わされます。
今回の「名言」は、当連載Vol.2でご紹介致しました、猫と人間の関係を鋭く描いた「家の中の虎」の著者:米作家・写真家のカール・.ヴァン・ヴェクテン氏の「犬は無遠慮だが猫は喋り過ぎない」という名言に少し似ています、またVol.6でご紹介しました、英小説家で童話研究者でもあったアンドリュー・ラング氏の「猫は寡黙に語らないが深く考えている」にも共通するところがあります。
私たち愛猫家や猫と暮らしている人間は、毎日何回か
「今のあの表情は、一体何を考えているのだろう」と興味をそそられることや、
「まったく!何が言いたいんだい?」としか返答出来ないような
猫の「懸命な訴え」に困惑することもあります。
しかし、猫に限らず、私たちには、
自分の親が自分をどう思っているのだろう?とか、子供が親である自分をどう思っているのであろう?や、友人や恋人や職場の上司や同僚にどう思われているのであろうか?
というテーマは生涯付きまとって来るものです。
これは度が過ぎれば「自意識過剰」ということになってしまいますが、
必ずしもそういうことではなく、
自分の感じ方や望みが果たして他者と共感出来るのであろうか?
もし出来ないのであったらば、それは他者にとっては迷惑であろうし、共に何かをしようとしてもお互い心よりそれを充実出来ないかも知れない。
などの気遣いや優しさかに根ざしている部分も少なくない筈です。
ただ、人間は言葉というものを持ち、それは猫が幾ら幾つかの言葉が分かったり、
私たちに語り掛けてくれたり。猫同士はもしかしたらテレパシーで会話をしているかも知れないとしても、
「言葉」という道具であり、心であり、思考の依りどころであり、座標であるようなものを
猫は人間ほどは持っていない筈です。
難しく言えば「論理的な概念の道具としての言葉」は、おそらくあまり持っていないのでしょう。
しかし、表題のジェローム氏もしかり、かつてご紹介した著名人もしかり、
だからと言って猫が何も考えていないなんてことはあり得ない。むしろ実に深く考えている。と説いているのです。
そして、「人間(家族・飼い主)に関すること」は、特に深く考えているようで、
確かにもの凄く心配してくれてまるで母親のような心持ちの子も居れば、
理想の恋人と思える程に分かろうとしてくれる子や分かってくれる子が少なく在りません。
しかし、著名人たちに言わせると、
「その全ては聞かない方が良い」ということのようなのです。
確かにあの夏目漱石の愛猫で、
「名前はまだ無い」と言い「吾輩」と自称する黒猫のように思われているのでは、
聞かない方が身の為心の為かも知れません。
また、猫は「道理」というものが良く分かっているようで、
それは人間がその感性を大分失ってしまった「自然の摂理」を分かる力が強いからかも知れませんし、この連載でも何度かお話していますように
「道に迷っても地理を把握している」からかも知れません。
例えば昔、新しい彼女が出来た時にうきうきしていましたら、
愛猫は浮かない表情なのです。
ヤキモチ?かと思ったらそうでもないことは一年後に哀しく痛感するのです。
猫に言わせれば「ああー、また同じパターンだ」「哀しいかな、よくも懲りない人だなぁ」
と始まる頃から分かって居たようなのです。
どうも猫の思考回路からすると、私たち人間は「迷路的な思考回路」にハマることがしばしばあり、その様子が良く見えるようなのです。
猫が道を迷わないのは、道など端からアテにしていないからでもありますが、
私たちは、その思考法さえも「道に沿って」考えてしまいがちで、
まるでレールに乗ったように、一旦その道を行くと、
中々それから抜け出せずに結局同じ迷い方をしたり堂々巡りをしてしまうようで、
猫にはそれが手に取るように分かるようなのです。
「ならばどうすれば良いか教えてくれよ!」と言いたくなりますし、
もし「猫占い」でもコンビを組んで出来れば、
「君らのご飯代も全く心配なくなるぞ!」とも思うのですが……………..
これも「道を行くことしか考えつかない」人間ならではの発想なのでしょう。
「ああ、また迷路の道に入り込んだぞ」と言われた時に
「じゃあ、どの道が正解なんだい?」と訊いてみたところで、
「そもそも道を行こうってのが間違いなのさ」と返されるのがオチなのです。
しかし、或る意味これは真実、もしくは極意なのかも知れません。
尤もそう考えるのも人間だからなので、猫にとっては「当たり前のこと」なのでしょうが。
猫より五倍は長く生きるとは言え、私たちにとっても掛け替えの無い時間。
その時々だけの「歩み」の大切さを真剣に考えるのであるならば、
「道無き道」を行く位の覚悟が必要なのかも知れません。
最後までお読みくださってありがとうございます。
民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏
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・著者紹介(若林忠宏氏)
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