連載コラム「猫の名言」
日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら)
Vol. 4 「疑いの余地の無い純粋さ」
ネコは絶対的な正直さを持っている。
Ernest Hemingway (ヘミングウェイ 米小説家 / 1899~1961)
私たち人間にとって、「親兄弟の存在」は、しばしばややっこしいことがあります。「血が繋がっているのに、何でこんなに分かり合えないんだろう」などなどと。
その点猫たちは、生後二ヶ月程度で授乳が終わり、その後四ヶ月程度の「野生」の修行を躾ければあとは「他人(他猫?)」。それぞれがそれぞれを「個々の存在」として認め、頼らないし頼らせない。そこだけを見るととってもクールに思えます。
もちろん、人間の持つ「憧憬の念」「説明不能な愛おしさ」「尊敬の念」はとても大切なものに違いありません。しかし、問題は、人間はそれらをすべてごちゃ混ぜにしてしまうことでしょうか。いくら考えても区別ができないのです。だから、考えずに思いつきで沸き上がった感情が答えだと思うしかないのでしょう。
これらは皆、人間が「群れで暮らす」ことから生じる、如何ともし難い「本質的矛盾」であると考える説があります。つまり「群れ」から浮いたり、はぐれたりしたくないという強い本能的な感覚と同時に、「群れ」に埋没してしまい自分を見失いたくない、という意識も持ち得るからだと言います。
この感覚が人間と猫との一番大きな違いでしょう。なぜならば、猫は、独立棲(群れずに単独で生活する)の生き物であるからです。群れることによって守られようとはしないのです。同時に猫は、他の猫と自分を比較しませんから、コンプレックス、劣等感、優越感はまったく持っていないのです。なので「どう思われているだろうか?」と心配する自意識も持ち合わせません。なので「気に入られよう」とも「良い子になろう」とも思わないのです。
そんな猫に好かれたとしたら、それはこの世に他に勝るものがないほど、本当のことに違いありません。
しかも、猫は、喧嘩相手が近づくだけで「しゃー!」「うー!」と警戒しますが、人間が感情的になるスイッチが入る前になだめると、収まったりします。それどころか、何度かそれを繰り返しているうちに、何となく馴れてきてしまい。一、二年後には、冬場寄り添って昼寝をしていたりします。
猫の「好き」は、「本当に好き」ですが、猫の「嫌い」は、「本当はそんなに嫌いでもない」のでしょうか。だとすると、これほど素晴らしい心の生き物はこの世の他に在るだろうか! と思ってしまうほど「出来た性格」です。
私は、人間に対しても、我が子に対してでさえ、自分のことを「好きか?」などと訊いたりはしません。それは、人間の思いはひとつに決められないからです。若干混沌としていると言っても良いかも知れません。と言いつつ、猫にも「おじちゃんのことどう思っている?」などと訊いたりしません。それを確かめる間もなく、苦楽を共にしているからです。
ところが、ある時、何が何でも薬を飲もうとしない子に、つい言ってしまいました。とある会社の倉庫で出産したその日に、娘息子と運ばれて来た小さな母猫です。
幼少期の何か、捨てられた時の心の傷か? とても恐がりで、その会社の社員数名だけ、一年掛かりでやっと馴れたそうです。なんと当時の名前は「びびりん」でした。あまりに可愛そうな名前なので、引き取ってからは、私が子供の頃からの我が家の名跡「Chimy」を引き受けてもらいました。四代目になります。
そんな人間の勝手な思い入れが加わったのでしょう、思わず。
「そんなことじゃ病気に負ける!」「そんなに信用できないのか?」
「そんなに嫌いなら野良にでも戻るか!」と。
すると、Chimyは、初めて見せるほど悲しそうな顔をして、必死に体を固めて耐えて、薬を飲みました。
いっぱい撫でていっぱい褒めて、たくさん「ありがとう」を言い、
「よく頑張ってくれたね!」「これでもっと一緒にいられるね!」
と言いました。
するとChimyは、そおっと顔を上げて
「おじちゃんのこと嫌いじゃないよ!」と言ってくれたのです。
「どうして?」と訊いてみました。
するとその答えは、
「だって、おじちゃん、人間には珍しく分かりやすいから」でした。
本当は猫は、もっと人間を愛したいし、愛されたいのかも知れません。
最後までお読みくださってありがとうございます。
民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏
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