道無き道は猫の道 – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Darron Birgenheier

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 41 「道無き道は猫の道」

 
一旦選んだ道に関して頑張る人は多い。目標に関してそうする人は少ない。

Friedrich Nietzsche (ニーチェ ドイツの哲学者 / 1844~1900)
 

 哲学・思想界の異端児ニーチェについて、「きっと愛猫家に違いない」と以前から申し上げて来ましたが、実のところ、猫について名指しで語った言葉にも、彼が愛猫家であるという証言にも出合ってはいないのです。

 にも拘らず、彼の理論から何気ない言葉に至る迄、その節々に「愛猫家に違いない」とか「少なくともかなり猫的な人間だ」と思わせることが少なくありません。
 
 その詳細や理由、根拠については、おいおいお話するとして、本日はまず表題の名言について。

 これは、この連載をご愛読下さってる方々には、もうお気づきかも知れません。

 ニーチェの表題の言葉は、何度かお話して来ました。「猫は道に迷わない」「猫は道を信じない。替わりに地理を良く把握している」に通じる言葉に相違ないのです。
 
 
 まず、表題の言葉にある「道」と「目標」ですが、ここでの「道」は、極めて具体的な事柄であることと、殆どの場合、既に「存在する方法論、プロセス、段階」があるということを確認します。
 
 具体的には、「教師になりたい」とか「医者になりたい」と思った場合、極めて厳格なシステムによって作られた「道」を歩んで行くしかありません。

 ところが、その一方で、先日NHKの特集番組でも紹介されていたのが、アフガニスタンで難民的に苦労を余儀なくされている人々への医療支援を行っている日本人のお医者さんが、気づけば「運河作り」に邁進しているという話しでした。私もその医師を支援する団体の写真展でアフガン音楽を演奏させて貰ったことがありますので、20年前からよく存じ上げています。

 「運河作り」は、地場の農業の傷害を取り除き、ひいては衣食住が改善され、清潔な飲水でも健康になり、「予防医学」としてはこの上もない、基本・根本の改善である。だから「これも医療なのだ」という話しでした。

 また、少し異なりますが、お医者さんの中でも「最新・最先端の医療技術」に邁進する人も居れば、逆に、東洋医学にも関心を寄せて「代替医療」を学び、その先の「全身医療」「予防医学」に進む人も、少ないですが現れています。

 「代替医療」「全身医療」「予防医学」は、まだまだ「開拓されていない道」であり、極端に言えば、「道無き道」です。

 
 また、もっと極端な場合、少年の頃から猛勉強して医大に入り、厳しいインターン時代を乗り越えて医師免許を得たにも拘らず、それを放り投げて、世界各地で「運河作り」のようなことに命を掛けている日本人もきっと居る筈です。

 私の知人にも、「医師免許を捨て」までの人は居ませんが、様々な資格や経験を活かして得た、普通の感覚の「道」を捨てたという人が何人もいます。多くの場合、やはり「道無き道」を歩む人生の大変換を為した人たちです。

 でも、それこそ限りある人生では、その変遷の矛盾や、他人から見た不可解が帰結しないかも知れません。しかし大きな視野に於いては、実は何の矛盾もなく、大きな目標に於ける「幾つかのひとつの道」であったのでしょう。

 
 極端に言えば、「道があると目標を見失う」「目標をしっかり見極めると(既成の)道を行くことが難しくなる」という哀しい「システム」か「ジンクス」があるのかも知れません。

 この考え方で表題の文言を読み返すと、
 一旦選んだ道から「足を踏み外すまい」とする人は多い。
 しかし、「目標を見失うまい」とする人は少ない。
という意味合いも浮かんで来ます。
 
 
 そう考えると「道を行かない」「道など端から信じていない」猫達は、常に「目標」を見失わず、「広い視野(見えない世界も含めて)」を把握し感じながら
 
 「我が道を行く」のかも知れません。

 
 この意味では、ニーチェはやっぱり「猫的な発想」の人であるに違いないのです。

 
 思えば人間は、昔は何処でも誰でも「道無き道」を突き進んだものです。
 太平洋のポリネシアの伝説などを読むと、気が遠くなるような気分にさせられます。それはある程度、「陸地の海」のような大平原・大草原を行ったモンゴル人や、サハラ砂漠(ちなみにサハラは現地の言葉で「砂漠」なので、この表現は「チゲ鍋」的な重複語。インダス河もしかり)を縦断したベドウィンや西アフリカ人も同じかも知れません。

 しかし、陸地ならば「一休み」も、「洞穴やくぼみに潜り込む」も出来ましょうが、大海原を駆って出るという勇気は、私には想像も付きません。

 
 とは言いつつ、気付けば古今東西で「先生」が付く職業は、皆ある意味で「道無き道」で苦労をする。平たく言えば「マニュアルが無い」。
 しかし、如何に「道が不確か」であっても「目標が不確か」であっては、決してならない。

 そう考えて40年近く音楽教師、20年近くセラピスト、カウンセラーをやっていますが。最近、「そう考える人は他にも居るのだろうか?」と思うことが増えて来ました。

 
 勿論同じ「先生職」の中でも、「音楽教師」などは、かなり怪しいもので、教職免許もない場合が多く。「お医者先生、弁護士先生、会計士先生、学校教師先生」のような国家資格も無ければ、「政治家(代議士先生)」のような審判も受けない。
 それでも「あらゆる先生職」に通じる「共通の目標」がある筈と思ってやって来ました。

 それは、ポリネシア人が、星を見て「我が位置と目的地」を知ったような壮大なもので、果たして一生の間に到達出来るかどうか? というものであったとしても。

 そして、その「目標」がブレない限り、日々日常は柔軟な修正や、回り道もありましょうが、いずれもその「目標の基本」の上に成り立っているのだろうと。

 
 様々な「先生職」に通じる共通の目標とは、

「困っている人を助ける(弱者救済)」であり、「足りないものを補う、助ける」であり、「目標に向かって歩む力を着けさせること」だと考えて来ました。

 
 しかし、実際の世の中の「先生たち」が如何がなものか?はさて置き。
 少なくとも「音楽教師」たる職業は、実は、この目標に全くそぐわないものであったのかも知れません。
 
 まず、そもそも「音楽を習いたい」「楽器が弾けるようになりたい」という人は、「困っては居ない」のです。

 しかし、私から見れば、大いに困るべき、困っていることに気付くべきなのでした。

何故ならばそれは、「心や感性」そして、それを開花させる「可能性」にとって、「苦手意識」「間違うことへの強烈な羞恥心」「比較意識」「焦り」その反面の「お気楽指向」「固定観念」というものが、殆どの人の「心や感性」とその「成長、開花」の大きな妨げになっているからです。

 実際、仮に「入門、初級、中級、上級」という段階が一般的に理解される形で同定されるとして。殆ど中級迄は、「障害の除去」に費やされると言っても過言ではないと考えます。

 しかし、世の中の「音楽や楽器を習いたい」とおっしゃる多くの人が「結果、美しく聞こえれば良い」もしくは「他人の評価がどうあれ、自分が楽しければ良い」という価値観に偏っているように思います。傷害を除去した後、自然に醸し出される「その人らしい、その人の音」ではなく。

 
 尤も、この世間とのギャップも私の「猫的感覚」の所為かも知れません。

 まず猫が人間になったとしてもオーケストラは愚か、二重奏三重奏さえも出来ないでしょう。否、出来るに違いないのですが、モーツァルトがジャズのよう? 

 「おい!君!」「そこは楽譜にそんな旋律は無い筈だが!」
 と指揮者が駄目出しをしても

 「いや!今日の気分(会場の空気や楽器の調子を含めた)ではモーツァルトもきっとこう弾いたに違いない!」と言い返しそうなのが猫です。

 世の中に猫派は少なくない筈で、アメリカでは数年前に「犬を飼っている人」を越えたとも言われますが、音楽に関しては、猫派な人が少ないのでしょうか?

 勿論、この連載でたくさんご紹介したように、欧米には愛猫家で名音楽家は少なくありませんが、日本はどうなのでしょうか? 

 猫的な生徒さんが多ければ、私の教室も行列が出来るのかも知れません。
 
 尤も、猫的人間は「人に習う」などはしないのかも知れませんが…………….。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

「福岡猫の会」




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