猫の「ちょい悪」気分 – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Kevin N. Murphy

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 40 猫の「ちょい悪」気分

 
猫と焼き魚

インドネシアの諺
 

 以前、この連載のVol.10で、日本の諺の「猫を追うより、皿を引け」と「猫を追うより、魚を除けよ」をご紹介しましたが、それと似たような諺がインドネシアにありました。

 インドシナのタイなどですと、うるち米、どぶろく、焼酎の故郷であるとか、山田長政がしばらく滞在したとかで、結構日本と繋がりがありますが、インドネシアともなると、やはり距離があるように思います。
 
 沖縄ですと、貿易で繋がりがあったらしく。沖縄家庭料理の定番「ゴーヤ・チャンプルー」の「チャンプルー」は「混ぜた炒め物」のようなニュアンスですが、一説によれば、インドネシア語の「チャンプール(ごちゃ混ぜ)」が語源だとも言われます。

 
 その他、古くは、戦中に日本の子供達に好かれた唱歌「土手のスカンポ、ジャワ更紗」に始まり、比較的新しいところでは、バリ島旅行ブームや、そこで出逢う音楽「ガムラン」などなどで、ファッションやスタイルでは民芸品も良く目にしますから身近な感じもしますが、その実、文化性や民族性は今ひとつ分かっていないかも知れません。

 
 そんな近いようで遠い国に、同じ諺、同じ発想があったと知ると、やや身を乗り出して「もう少し分かってみようか?」などと考えたりもする訳です。

 
 良く良く考えると日本の諺「猫を追うより、皿を引け」は、結果の善後策よりも、原因を解決しなけりゃ意味が無い!駄目だ!という話しです。

 或る意味、結果論的罰則だけでなく、原因の解決を考える
 これを日本人の聡明さと言ったら自画自賛でしょうか?

 先日NHKでは、江戸時代の火付盗賊改方「鬼の平蔵」の話しをやってました。
 平蔵は日本で初めて、罪人の更正と社会復帰のための職業訓練所を作ったとか。

 また、アフガニスタンで医療活動を続ける、中村医師が運河を作った話しもやっていました。干ばつで農業が出来ないから反政府勢力の雇われ兵になってしまう。
 病気も減らない。「これも医療だ」とおっしゃっていた。

 
 もっと私たちにとって身近な話しでも考えることが出来ます。
 
 例えば、しょっちゅうクラスの四五人の生徒が学校サボって何処かに遊びに行ってしまうことに頭を抱える高校があったとします。

 「罰則を厳しくするより、授業を面白くしろ!」というような話しです。

 同じように小学生がちっとも宿題をやって来ない。やはり厳しく叱るより宿題したくなるという方向性に指導するべきという話し。

 ところが、親御さんも教師も学校も、「宿題したご褒美」のようなことは直ぐ考えるけれど、「宿題」そのものを「やりたくさせる」ということは考えないのが不思議です。

 偉そうに言いますが、私に言わせれば簡単なこと。

 子供と言えど人間の本質は、「やりたいこと」と「やりたくないこと」は恐らく常に等分あるのです。
 なので、「宿題をやりたいことに替える」と、他の何かを「やりたくないこと」と感じるようになるのが「バランス感覚」というものです。

 
 なので、私が教師だったら、意図的に「やりたくないこと」をさせるでしょう。それこそ「意味が分からない、薪割り」とか、そしてそこに「ご褒美」が登場する。
 それとセットで「宿題を楽しいものにする」

 
 実際、子供が家に帰ってゲームばかりになるとしても、ゲームがそんなに面白い訳ではない筈で、
 上記のバランス感覚と、習慣と「面白い」と思い込む自己暗示が殆どです。
 昨今問題意識が高まっている、様々な「依存症」もしかり。

 
 これらも皆、猫達から教わったことです。

  「柱やソファーで爪研ぎをするのが困ったもんだ」とお悩みのご家族は少なくない。「爪研ぎ買って来てやったのに!止めないじゃないか!」と。

 でも猫とってみれば、
 「はい、この爪研ぎだったら良いからね」では上記の「バランス感覚」の役には立たないのです。

 
  猫がトカゲをいたぶるのも、「狩猟の技が鈍らないため」のことで、よほど苛酷な野良生活でも無い限り「空腹だから、美味だから」ではない。

 
 なのでトカゲが逃げるから意味があるのであって、「トカゲの玩具」を放り投げてみても意味がないのと同じです。

 
 「柱やソファー」は猫自身「悪いこと」と分かっているから、その「悪戯心」と「征服欲」を満たす為にするのが「バランス感覚」です。

 なので、私は、買って来た「爪研ぎ」は、猫の通り道に何気にセットし「あれっ?こんなところに」「まぁせっかくだ、爪でも研ごうか」として置いて、

 満たされない「ちょい悪」な行為の為には小箪笥のひとつを空にしておいたりします。空ですから開けても、中に入って隠れんぼうしても問題無し。
 
 もちろん、たまにそこで粗相されたりもしますが。
 そして、発見する度に、少し叱ってみせる。
 
 猫の「ちょい悪気分」は充分満たされます。
 それに飽きた頃には、
 その箪笥に何か玩具を入れておく。 などなど………。

  
 表題のインドネシアの諺「猫と焼き魚」は、日本の諺「因果応報」「根本原因を直さなきゃ駄目」というのとはちょっと異なって、

 「火に油」「濡れ手に粟」のような「相性が良過ぎること」の危険を言っているようでもあり、「考え足らずや楽観的な無頓着の愚かさ」「結果は明らか」「自業自得」を説いているようでもあります。
 
 猫に限らず、害虫や湿気やカビなどに対しても、「無精」が招く明らかな失敗や後悔というものの多くも「猫と焼き魚を一緒にしておいたようなこと」はしばしばあるのではないでしょうか。

 一方、日々の暮らしから大きな社会全体に話しを置き換えると、「自業自得」や「反省」では済まされないことに繋がります。
 例えば、「汚職と長い勤続」も「猫と焼き魚」なのでしょう。なので、公務員さんなどは一定の期間を過ぎると転属になる。
 公共事業も手抜きをし始めるから、頻繁に入札で業者を入れ替える。

 その周到さの割には事件や事故が減りませんが……….。

 今日最も憂慮されているのが、「○○詐欺」の類いや「○○依存症」
 それらも人間の本質的な何かとそれを刺戟する何かを「近づけて置く」ままにしているからなのでしょうけれど、不思議にその根本的な仕組みを変えようという動きが見られない。
 
 
 上記のように、
 人間も猫も、その本質的な心理は治らないと考えるのはどうでしょうか?
 なので、逆手に取って逆に、その性質を上手く利用し、バランスを取る。

 
 猫の場合、
 「焼き魚」が、人間の掛け替えの無い夕飯のおかずでは確かに問題です。

 また猫も、そればかりになって、フードを食べてくれないのでは
 栄養が偏り、怖い病気もあり得ます。

 でも、人間の食事の場合は、
 「はいどうぞ!」と奇麗に盛りつけられた料理が
 テーブルに奇麗に並ぶ方が食欲が湧き、
 コンビニやスーパーで買った容器のまま「ポン!」と置かれても悲しい

 実際、消化吸収も良くないかも知れない。

 ところが同じことが猫の場合、お皿に入れて「はいお食べ!」よりも
 人目を盗んで「狩り」のように食べる方が美味しいようなのです。

 ならば、「焼き魚」も工夫して、
 塩分控えめで猫に必要な栄養素が含まれていて
 何気を装いわざと置き忘れて、後で少し叱ってみせたりすると

 食欲不信な時などは良い手段なのかも知れません。

 
 私はマレーシアに行った時に、マレー人の穏やかさと優しさ、礼儀正しさに
 昔の日本人の良さを思い出しました。

 もちろん表題の言葉は
 「猫と焼き魚を一緒に置くことは馬鹿なことだ」の意味でしょうけれど。

 日本の諺にあった発想の転換を、
 きっとマレー人の人々も豊かに考えられるような気がします。
 「目には目を、歯には歯を」ではない何かを。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

「福岡猫の会」




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