猫の恩返し – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Tom Roeleveld

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 22 「猫の恩返し」

 
子猫たちは、親猫の所有物ではない。神さまからの預かりものだ。

(元捨て子猫:Nyajiraと元捨て野良猫:Chimy)
 

 おそらく捨て猫で、野良経験はさほど長くなかったと思われる「Chimy」は、2010年4月。車で一時間以上遠くの某薬品会社支店のスタッフさんたちに連れて来られました。雄雌ふたり兄弟を出産した日の当日。母子そろってでした。
 
 スタッフさんたちは私の知人の知り合いで、「会社で野良が出産した。色々教えて欲しい」との電話に、「どうぞどうぞ」と言っただけなのに、ほどなく連れて来てしまったのです。

 「薬品会社なのでお互いリスクが高い」と言われ、突っ返す訳にもゆかず。その後も色々あって………….、娘息子共々、今日も苦楽を共にする家族です。

 
 おそらく捨て子猫であったろう「Nyajira」は、その前年2009年の梅雨の切れ間の6月末。近所のホームセンターからの「店舗裏庭に子猫が居るが捕まらない」のSOSで急行して保護しました。生後三ヶ月程度でした。

 駆けつけた当初は里子に出す予定でしたが、「もしや?」と思って「にゃじら?」と声を掛けたら。それまでずっと泣きっぱなしだったのが、「ぴたっ」と止みました。確かに中々捕まらず。「ぴゅーーーっ」と凄い勢いで逃げ回っていたのも、名前を呼んだ後はすんなり捕まりました。
 
 「もしかしたらあの『にゃじら(一世)の生まれ変わり?」と思った上に、やはりその後色々あって、今だに家族の一員です。

 「にゃじら」という名は、私の愛読漫画、小林まことさんの「ホワッツマイケル」に登場する、薮睨みのどら猫さんから拝借したものです。

 一方の「チミー」は、私が生まれた頃に居た猫の名で、その後も我が家の「定番」「名跡」となっていて、今居る「チミー」は五代目です。

 なぜ、似た様な境遇なのに、一方は「どら猫の名」一方は、「名跡」と差があるのか? それは、「にゃじら一世」が、亡くなる直前の一週間を除いて、二三年「野良」と「餌付けのおじさん」の関係だったからです。

 まだ福岡市郊外に引っ越して来て直ぐの頃。「保護猫の会」も仲間が集まりそうになると減ってしまい、「TNR」。すなわち、「野良を一時捕獲し、不妊処置をしてまた放つ」という活動に至れないまま、怪我や病気の悪化の場合のみ保護していた頃のことです。
 「野良は、野良で毅然と生きている」。それに対する敬意のつもりで、「創作の名前では呼ばない」と決め、言わば「あだ名」で呼んでいたわけなのです。

 一方の「チミー」は、四代目が里子に出て別の名前に替わって「名跡が空席だった」こともあるのですが、会社スタッフさんたちが付けた名前「びびりん」があまりに可愛そうで、「名跡」を差し上げたということです。
 捨てられた時とその後のことで、「不安と恐怖のトラウマ」が激しく。とても警戒心が強いから「びびりん」だったのでした。

 それでも、出産直後に別な家に連れて来られたのに、その落ち着き振りたるや見上げたもので、自身も小柄で病弱なので、娘息子も小さく神経質ですが、それなりに立派に育て上げました。
 それどころか、「恐がり」はすっかり解消したのに、神経質な性質はそのまま「生意気、身勝手」伸び放題。我が家の「我が儘トップ3」を母子で独占しています。

 息子「マーシャ」が七ヶ月になった頃、主治医先生に「去勢手術」のための健康診断に連れて行きました。
 
 ところが、「まだまだこんなに小さいじゃないか!」とあっけなく言われて帰宅した数日後。私が荷物を担いで部屋に入ったスキに、部屋を飛び出し他の子の部屋に行き、荷物を置いて捕まえるまでの数分間に、「にゃじら」と母親「チミー」を含む三雌を妊娠させてしまいました。

 「にゃじら」も、子猫の頃に捨てられ、その前の栄養状態も良くなかったのか? 小さく生まれて小さく育って、「ふっくらして来たな」と思っても3kgちょっとの小柄な猫です。なのに、七頭も産んでしまいました。

 落語と形態模写の名跡に「江戸屋猫八」さんというお名前がありますが。幾ら猫のお乳が八つあるからと言っても。出具合の善し悪しで、赤ん坊が交互に選んで吸いますから。最多で五六頭がせいぜいです。なので、「七頭」は、普通の母猫でも大変。しかも「にゃじら」は、超小柄。毛並をボソボソにして、自分の命と引き換えに育て上げました。
 
 「にゃじら」の出産の数日後、「チミー」の方は、四頭出産し、二頭が死産。一頭は、直後に「チミー」は諦めてしまい。私が必死で授乳しましたが、三日保ちませんでした。そして唯一、今も元気な超小柄ながら、我が家で一番声と眼が大きい雌「Luna」一頭だけが育ったのでした。

 ところが「チミー」は、我が家に来た時の「見上げた落ち着き振り」とは全く逆転し、出産の翌日から驚くほど異常に呼吸が早い。死産の根本原因も心配ですから、病院に行かねばならなくなりました。

 しかし、生まれたばかりの「Luna」は、どうするのか? 

 まさか、七頭の我が子の授乳だけでも瀕死の「にゃじら」に託すわけにはいかない。「大丈夫そうか?」と病院に行っている間に、何かのきっかけで気が立って、よそ者の「Luna」を蹴散らすか、かみ殺すかも知れない。
 さりとて、母猫の保温が無いところに置いても行けず。「一緒に病院に」とも考えましたが、どのような展開になるか?想像も付かない。母猫自身がかみ殺すかも知れませんし、そうならずとも、また育児放棄をしてしまうかも知れない。

 で、結局。どう転んでもリスクは少なくない。ならば、「この子たちを信じよう」と、「にゃじら」に預けてみたのです。

 すると、「にゃじら」は、まるで察していたかのように懐に受け入れ、「Luna」も、迷わず「にゃじら」のお乳をむさぼりました。「チミー」も我が子を盗られたと慌てる様子も全くなく。

 
 「凄いねーにゃじら」「もしかしたら、分かってたのかい?」と言うと。
 
 「子どもたちは、私たち皆が授かった宝だ」「当然だよ」

 と、平然と言うのです。ガリガリのボロボロの身体なのに。

 
 「チミー」は、軽度の心筋症の疑いがありました。
 それでも、その後のこの六年。悪化もせず、元気にしています。

 
 出産後、子猫たちの眼が開き始めた頃。陽当たりの良い部屋に「子供部屋」を用意し、ふた家族を移動させました。
 
 「まさかな」「流石にそれはないよな」と思いながら。

 ふた家族を、同じサークルの中に入れてみました。

 「にゃじら」と「Luna」と、「にゃじらの子どもたち」は、互いにもうすっかり馴れていましたが。「チミー」がどう出るか? 

 すると、「チミー」は、まるで当然であるかのように、「にゃじら」の子を三頭引き受け、それぞれ四頭ずつ授乳してくれたのです。

 「チミーの恩返し?」

 もしそれが無かったら、「にゃじら」自身の命も危なかったかも知れません。

 八頭の雌猫四頭は、皆小柄ですが。雄猫四頭は、御陰で皆立派な体格です。

  二頭のちいさな母猫が、共に力を合わせて赤ん坊を育て上げる。
 感動的な場面を見る度に、猫の心の純粋さと、ひたむきさに涙しそうな日々でした。
 
 「チミーも偉いね!」「立派な恩返しだ!」

 「でも、まるで『当然!』のようだね」と言うと。

 「そうよ!」「だって、この子たちの命は」
 『神様からの預かりもの』だもの」

 と教えてくれました。

 
 その時迄、私の願いも虚しく三日で逝った子を放棄した「チミー」を、少し「クール過ぎる」と思っていたのですが。
 「育たない」と知るや、早々に「神様にお返しする」という感覚で、残る子たちに総ての力を注ごうと切り替えたのだろう、と思わされたのでした。
 「命を大切に」とは昔から聞かされていました。
 しかし、それを否定する論理的な根拠が無いだけで。納得して肯定するほどの論拠も、実は持ってなかったかも知れません。

 だからでしょうか? 「自分の命、自分の人生、どうしようと自分の勝手」のような人間が増えた気がします。
 
 しかし「預かりものだ」は、この上も無い立派な論拠です。それを知れば総てのことが納得出来ますし、つじつまが合います。

 それを教えてくれたのが、捨て猫・野良猫の困難に立ち向かって奮闘を続けて来た。小さな二頭の母親だったのです。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

「福岡猫の会」




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