猫の想い – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Lucky the fur

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 18 「猫の想い」

 
たとえ9回生まれ変わっても、あなたの猫があなたを理解しているほどに、あなたが愛猫を理解することはできないだろう。

Michael Anthony Zullo (マイケル・ズッロ 豪サッカー選手 / 1988~)
 

 意外に少ないのがアスリートの愛猫家です。知られていない、語られていないだけかもしれませんが、文豪・芸術家と比べれば圧倒的に少ないはずです。
 やはり自宅で仕事をする人間は、猫の世話も出来れば、猫に近い存在。加えて、ある意味「引きこもり系」。それに対して、サッカーに限らず、大観衆を前にして、大きなフィールドで自分の限界に挑戦するアスリートは、家に居る時間も少なければ、意識も大分違うのでしょう。

 それでもフィールドどころか空を駆けたリンドバーグは愛猫家ですし、同じく飛行機乗りだった「星の王子様」の作者、サン=テグジュペリもその発想から、おそらく愛猫家であったろうと推測します。そして、現在も活躍中のこのズッロ選手。
 言い換えれば、引きこもらず忙しく外で体を張って生きる人生なのに、猫が好きだったり、猫のことを理解していたりするのは、逆に見上げた愛猫家と言えるかもしれません。
 
 そして、何より感心させられるのが、ズッロ選手が用いた「9回」という言葉です。欧州では、猫にまつわる言い伝えに「9」が多いのです。基本「猫は9回生まれ変わる」というのがあって、イギリスの諺にも「猫は9回生きる、3回は遊びに、3回は放浪の旅に、3回はじっとしていることに費やす」というのがあるそうです。

 想像するに、ズッロ選手は、子どもの頃、自然や犬や猫や鳥に囲まれて、きっと祖父母とも一緒に暮らしたか? 昔の言い伝えを良く学んでいた両親に恵まれたか? もしくは全く逆で、都会の下町に暮らし、野良猫と接する時間が多かったのか? それでも古い諺や、「9と言う数字の持つ神秘的な意味」を知る昔気質の身内がいたこと。そしてそのような古い考えや感覚に少なからず惹かれる感性があったことは確かなのではないでしょうか? 

 もちろん、オーストラリアでは、現代の若者も、国民的習慣で、何かにつけて「9回生まれ変わっても」という表現を普通にするのかも知れません。この辺りとズッロ選手の生い立ちに関しては、詳しい方にぜひお教えを頂きたいと思います。
 
 ズッロ選手の言葉で大切なことは、「猫は飼い主をかなり理解している」ということと、「飼い主は、その愛猫をたいして理解していない」ということですが、それはどういう意味なのでしょうか?
 
 良く語られる、飼い主の多くが、分かっているつもりで実は分かっていないところが、「猫の気分」や「ワガママ」や「つれない素振り」の正体についてです。

 例えば、撫でる場所ひとつを取っても、「ああ、気持ち良い! ぐるぐる……」かと思えば「何よ! そこは止めてよ!」と叱られる。そんな飼い主・愛猫家さんは少なくないのでは? 実は、これは「猫を分かる」というより、少し「鍼灸ツボ」を勉強しますと良く分かるかも知れません。毛並や舌色、表情で、内蔵や血液循環の健康状態を察知して、効果のあるツボを撫でたり、指圧したりすれば「ぐるぐる」間違いなしです。
 
 しかし、ズッロ選手が言っていることは、そんな話ではないはずです。
そもそも、重要なポイントは、「猫は分かっている」ということです。

 
 保護した時に既に、血混じりのよだれを垂らすほど酷い口内炎で、六年頑張りましたが最期は壮絶な闘病の果てに逝った、猫エイズだった「Chame」。母屋の猫たちと隔離して、駅を挟んで反対側のマンションの一室を借りていた民族音楽教室に住んでいました。

 なので、言わば「教室のマスコットボーイ」でした。

 しかし、今思えば不思議なことに、あの当時の数十人の生徒さんの中で、猫好きは一般平均より少なかったように思います。「民族音楽=自然に囲まれ自然素材の楽器で、伝統的で、根源的な叡智に根ざす音楽」という感覚に共感するのであるならば、生き物や自然に対する憧憬も深かろうと思うのですが………….。

 
 著名人たちの別な名言に、「猫は心地良い場所を探す名人だ」のような言葉が幾つかあります。
 
 「Chame」は、クラスが入れ替わると、程なくして、誰かに狙いを定めてその人の胡座の上に入り込むのです。アジア民族楽器の多くは座奏でした。
 ところが、その生徒さんのほとんどが実は「猫が苦手」。ならば、「Chame」にとっても「居心地」はさほど良くないはずなのです。

 猫にしては「Chame」は、ほんとに寡黙で、ほとんど何も話してはくれませんでした。(亡くなった後、代わりに、妹分からたくさん聞きましたが)
なので、「どうして、喜んでもくれない生徒のところに入り込むの?」とは聞かずじまい。 
 けれど、ほどなく、「はっ!」と気づいたのです。
 
 「Chame」は、その日そのクラスで、「一番気後れしている生徒さん」の胡座に入り込むのでした。 

 私が、「音に生気が無い」とか、「気もそぞろだ」と気になってその生徒さんに目をやると、何時の間にか、「Chame」が先回りして懐に入り込んでいるのです。

 「誰っ? 今の音違うよ!」とか「○○さん! 集中が足りないよ!」などと言いかける度に、「Chame」と目が合って。

 「分かってる! もうちょっと待ってあげて!」と見つめ返されてしまうのです。

 確かにズッロ選手がおっしゃるとおり、私も最初は分からなかった。何人かは「Chame」の御陰で、「猫嫌い」や「猫恐怖症のトラウマ」から解放された生徒さんもいますが。その人たちも含め、「Chame」の本当の気持ち、
 「気後れで弱まった気をサポートする」
 という「Chame」なりに教室助手を買って出ていた想いは、いまだに誰も分かっていないかも知れません。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

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