森羅万象を観る猫たち – 連載コラム「猫の名言」




猫の名言
photo: Tirso Lecointere

連載コラム「猫の名言」

日本初のプロ民族音楽演奏家でもあり、現在「福岡猫の会」で病気の保護猫たちの看病を続けられている若林忠宏氏による連載コラム。猫や人間に関する世界の名言を紹介しながら、猫たちとの生活のなかで筆者が体験したことや気づかされたことをつづります。(「猫の名言」TOPページはこちら
 



Vol. 8 「森羅万象を観る猫たち」

 
ネコのようにミステリアスに書けたらと思う。

Edgar Allan Poe (エドガー・アラン・ポー 米小説家 / 1809~1849)
 

 「推理小説は彼によって確立した」とも言われる世界的なミステリー作家ポーをして、「ミステリアス」と言わせる猫。彼もまた、かなりの愛猫家として知られます。
 猫には私たちも日頃頻繁に、まるで感嘆符のように「ミステリアス!」と発してしまいそうになります。それは、することがしばしば矛盾に思えたり、ルールが無いようだったり、逆に妙に頑固にこだわったりするからですが。ポーほど「心の裏、心の奥底」を見つめ、「闇の世界」の果てまで覗いたような人間が言うことです。やはり、より深いものを意味しているのに違いありません。
 
 私たちの中にも、ごく希に、猫の神秘的な様子を目撃したことがあると言う人がいます。確かに、夜中に、数頭が何の気配もしない窓の外の暗闇を見つめていたりすると背筋が寒くなることがあります。「皆が一点を」ならば、野良が迫って来たのでしょうが、あちこちを目が追っているのに、物音がしない時などは、ある種の「恐怖体験」手前な感じがします。
 
 不治の感染症をダブルで負って、或る真冬の日に我が家の玄関をノックして助けを求めてきた捨て雌猫「くずこ」は、既に成猫でした。手術もしたりして頑張りましたが、一年と数週間目の夜中。私の腕の中で静かに息を引き取りました。

 その翌朝、雪も舞った数日続いたどんよりな天気は、驚く程の快晴になりました。なぜか、病気と果敢に向かい合った子が逝った日は、どんな悪天候も一時晴天になるのです。もう十回近く続いています。逆に一頭。よほど無念だったのか、晴天続きが、その一時だけ大荒れになったこともあります。その子によってタイミングはまちまちですが、天気の様子で「ああ、今登っているところなんだな」と知ることができます。

 本連載コラムのVol.2で登場した捨て子猫だった「もなか」の姉。一番重傷で、七年経った今でも失明寸前まで行ったまぶたが開き切らない。けれどとっても明るくて、おかしくて、よくお話をしてくれる小さな雌虎猫の「ごま」。

 「くずこ」の徹夜の看取りの後、「ごま」や「もなか」たちの陽当たりの良い部屋でほんの一時休みました。
 
 私の気落ちが分かってすり寄って来た「ごま」に、色々話しかけました。

 「ごま!」「くずこおばちゃん逝っちゃったよ」
 「ごまが一番大変だった時、おばちゃん、いつも『がんばれ!』って言ってくれてたよね!」
 
 「ごま」は、「うん!そうだった!」と言いながら、しきりに私の頬に顔を何度も擦りつけてくれました。目鼻の後遺症で、いつも涙と鼻水なので、私はべちゃべちゃになります。
 
 「くずこおばちゃん、挨拶に来た?」「もう天国に行っちゃったかなぁ?」
 と言ってほどなく。
 「ごま」は、私の胸の上から急に飛び降りて窓辺に走って行き、
 じっと空の一点を眺めていました。

 鳥かもしれない。と思ってそおっと後ろから「ごま」の目線を追いましたが、何も居ませんでした。

 
 我が子の死を認められずずっと抱きしめるニホンザルの話しや、車に轢かれた相棒の側を離れようとしないワン子の話しをしばしば聞くことがあります。
 それと比べて「猫はちっとも悲しそうにしていない」と呆れることの方が多くありました。看取った直後に、悲しみを堪えながら他の子のご飯の世話を始めれば、何も悟っていないかのように「わあ!ご飯!ご飯!」と、大騒ぎなのですから。
 
 でも、猫たちはとっくに逝った子の寿命は分かっていたのかも知れません。亡くなった直後、挨拶に来てはしばらく側に居たのかも知れません。そして、無事天国に行った後も、時々遊びに来て猫たちと話をしているからかも知れません。あるいは、近々生まれ変わって帰ってくることが分かっているからかも知れません。

 思いがけない愉快さで、「くずこ」の悲しみを和らげてくれたのが、何本か螺子(ネジ)が足りない「里子出戻り」の大きな牡猫「とら」の、ちょっと間抜けな姿でした。

 その晩も、「ごま」「もなか」「とら」たちの部屋で少し休んだのですが。
 いつも自分のことで頭一杯の「とら」も、やっと「くずこ」に気づいたようで、夜中しきりに部屋のあちこちを、蚊を追うような仕草をしておりました。もちろん、真冬でしたから蚊は居ません。「とら」は、その時まで、何があったかが分かっていなかったのかも知れません。それもまた「ミステリアス!」です。

 
 最後までお読みくださってありがとうございます。

 
 民族音楽演奏家/福岡猫の会代表: 若林忠宏


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著者紹介(若林忠宏氏)

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